トーゴ人の夫を持つ藤澤千尋さんに聞く、農村に残る屋外排泄の習慣と300個以上のトイレをつくったNGOのお話
千尋さんがお世話になったというホームステイ先の方
突然ですが、世界で屋外排泄をしている人々がどのくらいいるかご存じですか?
その数はおよそ4億9,400万人。
西アフリカに位置するトーゴ共和国でも、貧しい農村部を中心に屋外排泄の習慣が残っています。
彼ら・彼女らの家や近所にはトイレがなく、道端や草むらなどの屋外で用を足しています。排泄物には病原菌や寄生虫が含まれていて、そこから感染症が蔓延し、多くの人々が亡くなっています。
そんなトーゴの危機を救うため、昨年現地NGOの「VIVASFM TOGO(ヴィヴァスファム トーゴ)」が、『ンココプロジェクト』を実行し、家庭用トイレを327個、公衆トイレを4箇所(学校に2つ・市場に1つ・大通り沿いに1つ)に作ったそうです。
「VIVASFM TOGO」のメンバーを夫に持ち、クラウドファンディングを担当した藤澤千尋さん(以下、千尋さん)にお話を伺いました。(千尋さんは、長野県高山村に暮らす、お子さん2人を持つママさん)
参照
- UNICEF「Progress on household drinking water, sanitation and hygiene, 2000-2020 Five years into the SDGs July 2021」
- 公益財団法人 日本ユニセフ協会 ユニセフの主な活動分野|水と衛生 衛生的な環境 (トイレ)
家、学校、市場、安心・安全なトイレでみんな「笑顔」に
家庭用トイレ
「ンココプロジェクト」は、女性の雇用支援やストリートチルドレンの保護などを行う現地NGO・VIVASFM TOGOによるもの。「ンココ」は現地語(エウェ語)で笑顔という意味です。
Vo県の人口は2,300人以上
「ンココプロジェクト」は2021年1月に開始され、とりあえず...1年かけて終了しました。
家庭用トイレは、土地に空きがある家の敷地内に作り、2〜3家族で共用します。作業は職人さんとNGOのメンバー、そして住民も協力して進めます。6~8mの深さの穴を掘り、穴をゴザと生コンで覆い固め、排泄用の穴を開けて便座を置いて完成です。
千尋さん
「6~8月は雨の中で作業することもあって、土が柔らかくなり掘りやすい反面、固まりづらくなって崩れやすいのが大変だったみたいです。」
家庭用トイレ製作の様子
この作業には約1週間ほどかかったそうです。利用者は殺菌・消臭のため、排泄のたびに排泄物に灰をかけて病気に感染するリスクを減らします。なお、ティッシュやトイレットペーパーは高級品のため、排泄の際は不要になった紙を使用するそうです。穴は約6年で満杯になる計算で、そこから約6ヶ月間寝かせ、有機肥料にして農業に使います。
千尋さん
「いつでも決まった場所にトイレができることをとても安心しているみたいです!家族や友達と試しに座って楽しんでいる姿もあると聞きました。」
費用はクラウドファンディングで集めました。その担当が千尋さんです。当初は4つの村に100個のトイレを作るのが目標でしたが、想像以上のペースでお金が集まり、1ヶ月半で3,538,000円が集まりました(支援者は425人)。
千尋さん
「たくさんの支援をいただいたので、Vo県内の学校に2つと市場、大通りにもトイレを作ろうと決めました。学校には1,500人以上の子どもたちが通ってますがトイレがありません。」
学校は、幼小一体の学校と中学校です。各学校に男女6個ずつの個室トイレを作りました。
学校のトイレ
千尋さん
「市場は食料品や衣類、生活用品とかなんでも豊富に揃っていて、近所の人や商人など様々な地域の方が利用するんですけど、トイレが故障したまま放置されていたんです。管理者がいなかったり、修理する費用がなかったり...というのが要因だと思います。」
市場には男女4部屋ずつの公衆トイレを建設しました。また、学校、大通り沿いのトイレと共に、クラウドファンディングの支援者の方々の名前を壁に掲示したそうです。
市場のトイレ
千尋さん
「8月に、強風でバオバブの木がトイレの壁に激突しました。バオバブの幹はとても太いんです。完成間近だったんですけど、壁にひびが入ったりポリタンクが故障したりして大変だったみたいです。怪我人は0だったので良かったですけど...。チェーンソーで2日かけて木を撤去したと聞きました。」
市場のトイレにバオバブの木が激突!!
さらにVIVASFM TOGOは、多くの住民が持っているラジオでの呼びかけや集会での活動を通して、屋外排泄が感染症の原因になることを住民に伝えています。
村の集会で公衆衛生の重要性を周知
「ンココプロジェクト」は、こうして農村地域の人々を病気から救い、笑顔あふれる未来を目指すプロジェクトです。
トイレ建設、啓発活動は感染症予防の第一歩 みんなができるところから
大通り沿いトイレの落成式の様子
トーゴの農村でトイレが必要な理由、それは屋外排泄による感染症で亡くなる子どもが後を絶たないから。
千尋さん
「私も現地で屋外排泄していたんですが、草むらに隠れて1人でトイレをするのは不安で、暴漢や動物に襲われないかビクビクしていました。」
放置された排泄物には病原菌や寄生虫が含まれています。それが雨で流れると、水や土、蚊やハエなどを媒介して、コレラやエボラ出血熱などに感染し、死に至ることも少なくないといいます。
千尋さん
「現地の方々は、感染症にかかること自体を仕方ないと思っているところはあると思います。これまでどんなふうに予防していいのか、どんなところから感染症にかかる危険があるのかを学べる環境がない 状況にありました。予防の初歩として手洗いやうがいはあるものの、いつでも安全な水が手に入る訳でもなく、現実的に予防できる手立てが少ないなかで、まずできることとして、トイレの建設と啓発活動を始めたんです。」
また、感染症にかかっても、多くの子どもたちは、治療費がないことで病院に行けずに亡くなってしまうといいます。
千尋さん
「トーゴの公立小学校の先生の月収は約3,000円です。それなのに、**医療費や薬代は日本の保険適用外の値段とあまり変わりません。とても払える額ではありません。」(令和2年地方公務員給与実態調査結果第4表初任給|総務省によると、日本の小・中学校教諭の大卒初任給は20万円前後です。)
千尋さんは、観光でトーゴに渡りましたが、感染症に罹ったこともあり、とても苦しんだそうです。
千尋さん
「私は回虫症に罹りました。原因は食べ物や水だったと思います。高熱と下痢、全身の痛み、悪寒、膀胱炎も発症しました。近くに薬局はなく、やっと見つけたとしても全ての薬が揃ってはいませんでした。処方された薬を見つけるためには他の村に行く体力や費用(薬代、移動費)も必要で、誰もが充分な治療を受けることができ、薬を手に入れられるとは限らないことを痛感しました。。。運が良く重症にはなりませんでしたが、これが自分ではなくトーゴの子ども達だったら…と考えたら心が痛かったです。」
「ンココプロジェクト」は通過点 自分たちでメンテナンス維持・管理して屋外排泄の習慣を無くしていきたい
左:市長 右:オリビエさん(VIVASFM TOGO代表)
千尋さん
「NGOのみんなや私たち夫婦で話していることがあって、それは今回のプロジェクトをゴールにしないということです。今回は、特に緊急で必要な村や場所にトイレを作ったり、啓発活動をしているに過ぎず、まだまだトイレを必要としている人がいて、保健衛生の知識を広める必要性があります。ンココプロジェクトを通過点にし、屋外排泄の習慣を早く終わらせて、子どもたちの未来を守りたいです。」
完成したトイレのメンテナンスは、住民とVIVASFM TOGOのメンバーが共同で行っていくとのこと。こうして、トイレ作りからメンテナンスまでを住民が協力するのは、いずれ住民だけでトイレを維持し、時には増やしていけるように、という想いがあるからです。
マチアスさん(千尋さんの夫)
「トーゴ共和国にはトイレをはじめとしまだまだ課題は多くある。日本に来たことをきっかけに、故郷の家族の健康を守るためこの活動ができていることに喜びを感じている。」
オリビエさん(VIVASFM TOGO代表)
皆さんのおかげで家庭用トイレ327ヵ所+公衆トイレ4ヵ所すべてのトイレが無事完成しました。支援して下さり、応援し続けて下さり、本当にありがとうございました。困っている人たちを笑顔にするための私の団体(NGOVIVASFM)の夢を実現するために支援してくださった皆さん、本当にありがとうございます。 私は日本の方々への感謝を忘れることは決してありません。 今回のプロジェクトを通して、 日本の皆さんが"私たちは同じ人間だから助け合うことが可能だよ”と私に強く教えてくれたように思います。学校の生徒たちがトイレを気に入った姿を見て涙が流れました。 今、作業が終わり気持ちが軽くなっています。もし今後このプロジェクトの第2弾が実現出来たらと思っています。
アフリカのトーゴ共和国ではあなた方を歓迎します!私がいるので安心して遊びに来てください!みなさん、愛しています。
Eyizande!(えいざんで/また会おうね!)
参照:トーゴに輝く未来を…4つの村に、100個のトイレを作りたい.READYFOR
sharing love ポイント!
ンココプロジェクトは...一方的にトイレを増やさず、1つひとつ手作りで時間がかかっても、住民とVIVASFM TOGOが共に創りあげ、「関わるすべての人の笑顔が、この先もずっと続いていきますように」という、たくさんの人々の愛が込められたものだと感じました!
最後にもう1つ!オリビエさんが愛について語ってくれました。 愛とは、仲間に対する分かち合い、助け合い、思いやりである
千尋さんのお話を聞き、屋外排泄が死と隣り合わせであるということを初めて知りました。そして、私が知らず知らずのうちに身につけていた病気を予防する常識は、トーゴの農村の人たちにとっては常識ではないことにも衝撃を受けました。
私はこれからも、千尋さんを通して現地の状況を知っていきたいと思っています。
みなさまはどう感じましたか?
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